2012年12月31日月曜日

エネルギーファイナンスの勘所

 日本でもエネルギーの固定価格買取制度(FIT)が7月より始まりました。様々な地域で、再生可能エネルギーをつかって地域の活性化を試みるプロジェクトが立ち上がってきています。

 ソーシャルインパクト・リサーチでも、このようなプロジェクトを支援すべく、エネルギーファイナンスのコンサルティングを始めています。エネルギーに詳しい人はいても、このエネルギーファイナンスに詳しい人、会社はほとんどないのが日本の現状です。 

このエネルギーのファイナンスは非常に難しい面があります。非常に難しいからこそ、我々のような外部の人間の力も必要とされるわけです。

何がエネルギーファイナンスを難しくしているのでしょうか?

 エネルギーの売電、もしくは節電から生じる収益などの、経済的利益の不確実性はそれほど複雑な話ではありません。様々なシナリオの妥当性を変数によってシュミレーションしていけばいいだけの話ですから

 むしろ、その難しさはプロジェクト自体の構造の方にあります。
  1. 様々な利害の異なるステークホルダーが関係してくる
  2. 経済的利益のみならず、社会的便益も関係する
  3. そもそも、エネルギーは地域の共有資産という側面をもっている

という3点が挙げられると思います。

 経済的利益が生じるものの最適配分は市場メカニズム、所有権を設定すれば最適に解決できます。しかしながら、経済的価値と社会的価値の分配は、そもそも所有権の設定が難しい面があり、市場メカニズムによる解決は難しいのです。この当りは、環境会議2012夏号「地域のエネルギーは社会的共通資産 市場メカニズムではなく地域のコモンズによる協同管理が望ましいで詳しく論じたので、ご興味ある方はお読み下さい。

 ですから、必然的にコーポレイトファイナンス型の構造ではなくて、プロジェクトファイナンス型の構造になります。

このようなマルチステークホルダー型のプロジェクトファイナンスをどうまとめあげていくかの方法論をまとめています。

 クライアントはそのプロジェクトの資金をどう集めるべきなのか? どういう情報を出したらお金を集めることができるのかという結果を求めます。

 しかしながら、そのお金が集まるという状態を作り出すことは、いわば結果であって、原因ではないのです。ステークホルダーがそのプロジェクトに深く関与していきたいと考えてもらえる状態、関係性を作り出すことが、結果としての資金集めに通じるわけです。

 よくNPOの方に、ファンドレイジングでどうやってお金を集めればいいですか?という質問を受けます。私は、ステークホルダーとの関係性を作り出す、ステークホルダーのエンゲージメントが高めることが必要ですよ、という話をします。

 いわば、エネルギーファイナンスにおいても、マルチステークホルダーのエンゲージメントをいかに高める構造をデザインできるかが非常に重要になってきます

2012年12月30日日曜日

エネルギーを原資産とする金融商品開発


原資産をエネルギーとする金融商品を開発している。日本はこの分野はまだ未開拓だ。是非とも、この分野に一石を投じたいと思う。


まず、その開発商品が金融商品取引業上で問題がないかをチェックする必要がある。当社は2種業なので集団的投資スキームの匿名組合における設計を考えている。

商品開発の上でまず必要なのが、リターン基準の明確化である。
 どのようなケースでどうリターンが生じるのか? 税金はどうなっているのか? どの法律、制度に依存するものなのか?などを明確化する必要がある。

投資家に投資してもらう(リスクをとってもらう)ためには、どういう商品特性なのかを明確化する必要がある。また、期間(延長条件)、ロット、リスクプロファイアルも明確化する。実物資産は一般的にはインフレに強いと言われている。固定価格買取りがからむ場合はどうか? 買取り価格は名目値で固定されているので逆にデフレに強いのではないかと思う。

また、今回のエネルギー系プロジェクトは、生み出されるキャッシュフローは安定しているが、キャピタルゲインは生じない。最終精算価値もおそらく極めて低い。したがって、ある程度高い利回りを出す必要がある。

投資家からみた場合、他の商品との比較も大きなポイントだ。例えば、REITと比較した場合の優位性はどうか? REITの利回りが5%強+キャピタルゲインが生じる可能性があるので、78%程度の利回りは欲しいところだ。

レバレッジとリターンとの兼ね合いも考える必要がある。負債レバレッジを高めることでリターンをさらに高めることが可能となるが、高いレベレッジの場合は高いリターンが必要になる。どのくらいのバランスが適当なのか? この辺りは循環論になる。安定したキャッシュフロー、ダウンサイドリスクが低い場合は高いレバレッジ比率が可能となる。

経済的リターンに加えて、どのような社会的リターンを生むものなのか?
いわば共有価値の創出(CSV)である。様々な投資家でこの重視するウエートが異なる。経済的リターンオンリーで投資する人も入れば、社会的リターンを重視する人もいる。このあたりをどうデザインするかが最も難しいところだ。社会的リターンが非常に高いのであれば寄付という手段もありうるかもしれない。一般的に、金融機関は最低限の経済的リターンの見込みがない商品の投資は難しいだろう。

お金を出してもらうには、納得感のある収支計画、リスクリターンがみあっていること。また、ストーリーも重要となってくる。ストーリーが納得感を補強するからだ。投資家は合理的にみえてもそれほど合理的ではない。ストーリーというコンテクストのベースがあり、すっと合理性を受け入れるものなのだ。

投資家は他の誰が投資しているかを気にするものだ。ステークホルダーを考えて、自治体、地方企業など、地元の有力企業が投資するなどがあればよりいいだろう。

などなど考えながら、エネルギー商品の開発を進める。 プロジェクトをうまく進めウrには、エネルギーの特性を考えて、その特性にマッチした資金調達をアレンジすることが必要なのだ。

2012年12月28日金曜日

インフラ投資はどういうアセットか



新日本監査法人の再エネの方にお話を伺った。再エネは最近始めた段階で、元々はインフラアドバイザーグループの方である。関空・伊丹の統合のアドヴァイザリーをしているそうだ。

日本はまだインフラ投資は海外に比べて10年くらい遅れているのではないかという話であった。

改正PFI法案が通ったの東日本大震災が起こった3/11である。


海外ではマッコーレグループのようなインフラ投資を生業とするファンドがあるが、国内ではまだない。

民間がインフラにどういうリスクをとるのか? そのリスクをとることでどういうリターンがあるのかがなかなかみえてこない。

本来、 インフレが懸念されるような状況になれば、実物資産、インフラ投資も見直されるかもしれない。

インフラ資産は長期のキャッシュフローの予見可能性が高く、インフレ連動、株式との低相関。債券と株式の中間に位置し、不動産に近い面がある。これらの資産特性から、年金資産との適合性が高い、インフレ対策資産として、一定率のアセットクラスとして認められているのだ。

再エネも、初期投資が大きく、長期のキャッシュフローで回収するので、インフラ投資的側面をもっている。

政権は変わったものの、国、地方がお金がない中で、既存インフラの改修、新規投資で膨大なお金がかかるわけで、民間の知恵とお金を活用しようという動きは変わらないのではないかと思われます。

2012年12月24日月曜日

バングラデシュ農村をもとにしたCSV型BOPモデル

 
 PEAEカーボンオフセット・イニシアティブさんがバングラデシュ農村を対象にしたBOPビジネスの実証実験をおこなっています。

 バングラデシュはユヌス氏のグラミン銀行のマイクロクレジットが有名ですが、エネルギーはグラミンシャクティがやっており、1万人以上の従業員、1000以上のブランチをもつ巨大組織となっています。PEARさんもこのグラミンシャクティと恊働されています。今後のモデルを考えているということなので、私も考えてみました。

現状
 現在は農村で、照明用の電気(携帯用の充電用)、厨房用の熱エネルギーが必要という状態です。
  
現在は、家庭用熱エネルギーでは、改良かまどモデルが月2万台と急速に普及しているそうです。これを、家庭用バイオガスダイジェスターに置き換えることによって、設定費用は数千円から数万円とあがりますが、様々な便益が見込まれます。

提案モデル
 例えば、この初期投資(数万円)を日本の個人、企業投資家がまかない、元本を限度とした投資回収をおこなうとともに、社会的便益を投資家が得るモデルが可能ではないかと思います。


グラミン銀行との違いは、
  • 国際間のBOPモデルになっている
  • グラミン銀行で批判される高金利ではなく、投資家は元本回収を限度にする
  • 経済的便益だけでなく、社会的便益を生み出し、かつ、社会的便益で投資家は利子分の回収を図っている、
とういう点です。
来年は是非このモデルを試してみたいと思いますので、ご興味ある方はご連絡下さい。

2012年12月20日木曜日

地方自治体のエネルギーの成果指標は?

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地域主導型再生可能ネルギー事業者を確立するために自治体は何を目標とすべきだろうか?

PHP総研では、「再エネ事業者の事業者数を成果指標にすべき」と提言している。

 確かに、太陽光パネル設置は大手企業の草狩り場になっており、地域主導の事業者は埋没した状態にある。しかしながら、より高次の公益の立場に立つと、地域事業者を増やすことも一つの手段の位置づけに過ぎない。

 より高次の地方自治低の目標は、持続可能な地域の自立、「地域の再エネ自給率を高めること」になるのではないかと思う。以下は都道府県のエネルギー自給率である。


このエネルギー自給率が高まると、
安心
安全
経済が変動に左右されにくくなる
域内に経済循環が高まる、というアウトカム、効果が見込まれる。

つまり、地域の持続可能性が高まるのだ。この指標を地方地自体の再エネ基本条例の中に盛り込むといいと思う。

地域の食料とエネルギーの自給率を高めることが重要となる。

具体的にどの数値を目標すべきかは難しいが、理想は100%を目指すべきだし、それが年々改善していくことが望ましいだろう。

2012年12月19日水曜日

エネルギーファイナンス研究会をスタート

エネルギーファイナンス研究会をスタート。この研究会では、様々なエネルギープロジェクトをどのようにファイナンスしていくことが望ましいのかを考えていく研究会である。

エネルギー事業者、監査法人、市民型発電所事業者、大学でエネルギーを教えていらっしゃる専門家の方々などがご参加頂き、有意義な情報交換ができた。

今回は、「NPO法人 再エネ事業を支援する法律実務の会」の水上弁護士に講演して頂いた。

 このNPO法人はPHP総研と「地域主導型再エネ事業を確立するために」という提言書をまとめられている。大変意欲的な提言書であり、再エネ事業のボトルネックがわかる分析が盛り込まれているので一読を勧めたい。

 視点としては、現在は、大企業が地域の再エネの草狩り場となっているが、本当に日本で持続可能な再エネ産業を根付かせる上では、やはり地域主導型再エネを育てる必要があるという考えである。

 そして、そのためには、自治体の果たす役割が大きく、人材、情報、資金のハブ機能を果たす必要性があるのではないかという提言をしてある。

私の視点としては、
  • 地域の再エネがどういう価値をもたらすかを評価指標を作る必要があるという点が一点目。地域の再エネ資源は地域の社会的共通資本という理解がまず必要なのだ。その意識を促す上でも評価指標が重要となる。
  • 二点目は、地域主導に限らず、再エネ事業はまだ顕在化していないリスクがたくさんある。そのリスクをきっちりと把握していかないといけないという点。この点がクリアーにならないと、ファイナンスがつかないし、どういうファイナンスを組むかが難しいのだ。
  •  三点目は、ビジネス的にみると、各地域の発電量がどれくらいあるかとか、その土地はどれくらいの価格で売買されたとか、再エネ市場を効率化させる、様々な情報のアービトラージ事業の事業ポテンシャルは大きいだろうということ。ブルームバーグに買収されたNew Energy Financeのような情報インテグレーターの活躍余地があるだろう。
  • 四点目は、自民党政権になった場合に、この再エネ産業の育成がどういう位置づけになるのか? この点は追々明らかになっていくと思うのでウオッチしていきたい。農業系を重視する自民党の従来の考えからすると、バイオマス業者に利する可能性もある。いずれにしても、再生可能エネルギー産業の育成なくして日本経済の持続的成長はないと思う。 この点を共通認識にした上で、有効な政策を立案してもらいたい。